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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)9453号 判決 1999年3月30日

東京都町田市成瀬二二〇六番地

原告

株式会社オーディオテクニカ

右代表者代表取締役

松下和雄

右訴訟代理人弁護士

中島和雄

大阪府東大阪市荒川一丁目一六番一〇号

被告

八坂産業株式会社

右代表者代表取締役

楠木保男

右訴訟代理人弁護士

永田雅也

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇二〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録記載のにぎり成形機を輸入し、販売し、販売のために展示し、及び販売の申し出をしてはならない。

2  被告は、各本店、支店、営業所及び倉庫内に保管する前項のにぎり成形機をいずれも廃棄せよ。

3  被告は、原告に対し、金七八〇〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  右1ないし3項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

登録番号 一四〇二一三六号

出願日 昭和五九年一一月一六日(特願昭五九-二四一九一〇号)

公告日 昭和六二年二月五日(特公昭六二-五五七六号)

発明の名称 食品成形機

特許請求の範囲

「食品を成形するための一対のロータの中心部に取り付けられ、回転及び近接離間可能にハウジングに設けられた平行二軸に、外周を対向させて中心部を固定して取り付けられた一対の五角形板と、該一対の五角形板の回転時に該一対の五角形の頂角部が対向するまでは離間して前記平行二軸間距離の短縮を許容し、該一対の五角形板の頂角部が互いに対向するとき前記平行二軸間距離を広げて互いに嵌合する前記一対の五角形板の各頂角部に互いに嵌合するように設けられた凹状嵌合部及び凸状嵌合部とからなる回転伝達板と、前記平行二軸間に設けられ該平行二軸を常時接近させる方向に付勢する付勢手段とを具備してなることを特徴とする食品成形機。」

(二)  本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。

<1> 食品を成形するための一対のロータの中心部に取り付けられ、回転及び近接離間可能にハウジングに設けられた平行二軸に、

<2> 外周を対向させて中心部を固定して取り付けられた一対の五角形板と、該一対の五角形板の回転時に該一対の五角形の頂角部が互いに対向するまでは離間して前記平行二軸間距離の短縮を許容し、該一対の五角形板の頂角部が互いに対向するとき前記平行二軸間距離を広げて互いに嵌合する前記一対の五角形板の各頂角部に互いに嵌合するように設けられた凹状嵌合部及び凸状嵌合部とからなる回転伝達板と、

<3> 前記平行二軸間に設けられ該平行二軸を常時接近させる方向に付勢する付勢手段とを具備してなること

<4> を特徴とする食品成形機。

(三)  本件発明は、回転伝達板が五角形からなるため、一対の五角形板の頂角部が互いに対向するまではこれら頂角部は離間して前記平行二軸間距離を短縮させて一対のロータ間に供給された食品を圧縮し、一対の五角形板の頂角部が対向するとき前記平行二軸間距離を広げて互いに凹状嵌合部と凸状嵌合部とが嵌合し一対のロータ間の圧縮された食品を一対のロータ間から排出することができ、これにより従来の食品成形機より構造が簡単となり、小型化することができ、業務用はもとより家庭用食品成形機としても広く適用することができる、という作用効果を奏する。

2(一)  被告は、平成二年頃から、別紙物件目録記載の卓上型にぎり成形機(以下「イ号機」という。)を韓国から輸入して、「ニューころちゃん」の商品名で販売している。

(二)  イ号機の構成を、本件発明の構成要件に対応して分説すると、次のとおりである。

a ハウジング内に握り寿司のシャリ玉成形用の一対のロータが、外周を対向させ中心部をそれぞれの回転軸に固定して取り付けられてある。

b 該一対のロータの各外周部は、五角形を基本形状としてその各稜線部に相当する個所にそれぞれ凹部が形成され、各頂角部に相当する個所はそれぞれ外側に向け緩やかな円弧状に形成されており、該一対のロータの該凹部どうしが水平方向に対向するとき両凹部に囲まれた長方形の空間が形成され、両ロータの各頂角部どうしが水平方向に対向するように回転が進むにつれ該空間が解放されるように設けられている。

c 該二本の回転軸は互いに平行で、かつ一方に他方が一定範囲を近接離間しうるよう平行移動可能に設けられている。

d 該二本の回転軸間には、該平行二軸を常時接近させる方向に付勢する付勢手段が設けられている。

e 該二本の回転軸のうち、前記一方は動力により回転するが、他方は、該一方の回転が一対の回転伝達板を介して伝達されることにより、互いに逆方向に回転するよう設けられている。

f 該一対の回転伝達板は、外周を互いに対向させそれぞれ中心部が各回転軸に固定して設けられ、いずれも五角形状板の各頂角部に相当する個所に、片面側は板厚の半分の深さまで円弧状の凹部を形成し、他面側は板厚の半分の深さまで円弧状の凸部を形成している。

g 該一対の回転伝達板は、その回転時に双方の頂角部が水平方向に互いに対向するまでは頂角部どうしが離間することによって前記平行二軸間距離を短縮させるが、頂角部が互いに水平方向に対向するとき前記のごとく形成された双方の凹凸部が互いに嵌合して平行二軸間距離を広げるように設けられている。

h 寿司用シャリ玉成形機である。

(三)  イ号機は、回転伝達板が五角形状の板からなるため、一対の五角形板の頂角部が互いに対向するまではこれら頂角部は離間して前記平行二軸間距離を短縮させて一対のロータ間に供給された食品を圧縮し、一対の五角形板の頂角部が対向するとき前記平行二軸間距離を広げて互いに凹状嵌合部と凸状嵌合部とが嵌合し一対のロータ間の圧縮された食品を一対のロータ間から排出することができ、これにより従来の食品成形機より構造が簡単となり、小型化することができ、業務用はもとより家庭用すし玉成形機としても広く適用できる簡便さを具えている、という作用効果を奏する。

3  イ号機の構成を本件発明の構成要件と対比すると、構成a、b及びcは、構成要件<1>を、構成dは構成要件<3>を、構成e、f及びgは構成要件<2>を、構成hは構成要件<4>を、それぞれ充足する。

また、イ号機は、本件発明と同じ作用効果を奏する。

よって、イ号機は、本件発明の技術的範囲に属する。

4  イ号機の販売代理店における販売価格は約六五万円、被告からユーザーへの直接販売価格は約五五万円であるところから、一台当たりの平均販売価額は、五二万円を下らない。

故に、被告が得たと推定される売上額の累計は、一五億六〇〇〇万円となり、本件発明の実施料率五%を乗じた金七八〇〇万円が原告が被った損害額である。

5  よって、原告は、本件特許権に基づき、イ号機の販売等の差止め、イ号機の廃棄並びに損害賠償として金七八〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年九月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2(二)、(三)及び3の各事実は、これを認める。

2  請求原因2(一)は、被告が、イ号機を平成二年頃から韓国のメーカーに製造させて輸入して、販売していたことは認める。

しかしながら、被告は、売上が伸びず業績不振のため赤字経営が続いていたことから、平成九年一二月三一日をもって、当分の間営業全体を休業することとした。また、業績不振の原因であった、食料品加工機械の製造、販売、輸出入を、会社の目的から削除し、これを法務局及び税務署に届出ている。

したがって、平成九年一二月三一日以降、イ号機の輸入、販売、展示、販売の申し出は一切していないし、今後再開する予定もない。

3  請求原因は4は否認する。

イ号機の販売単価は一台当たり五〇万円で、被告は、次のとおり、平成二年から平成九年にかけて合計四〇八台程度販売した。したがって、販売総額は、二億四〇〇万円程度である。

平成二年 毎月二台程度 年間二四台程度

平成三年 毎月三台程度 年間三六台程度

平成四年 毎月四台程度 年間四八台程度

平成五年 毎月五台程度 年間六〇台程度

平成六年 毎月五台程度 年間六〇台程度

平成七年 毎月五台程度 年間六〇台程度

平成八年 毎月五台程度 年間六〇台程度

平成九年 毎月五台程度 年間六〇台程度

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録の記載を引用する。

理由

一  原告が本件特許権を有していること、被告が輸入し販売していたイ号機が別紙物件目録記載のとおりの構造であること、イ号機の構造が本件発明の構成要件を充足し、また、本件発明と同じ作用効果を奏することにより、本件発明の技術的範囲に属することについて、当事者間に争いはない。

したがって、イ号機を輸入して販売することは、本件特許権を侵害するものである。

二  ところで、証拠(乙一ないし五、被告代表者本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成二年頃からイ号機を韓国から輸入し販売していたところ、平成一〇年二月二日、平成九年一二月三一日付で業績不振を理由に会社の目的から食料品加工機械の製造販売、輸出入を削除するとともに休業した旨を「事業年度・納税地・その他の変更・異動届書」に記載して城東税務署長及び東大阪税務署長に届け出ていること、被告の商業登記簿の「目的」欄から「食料品加工機械の製造及び販売」が削除されていることが認められる。したがって、商業登記自体はあるものの、現在、被告は、会社として事業活動を行っていないといわざるを得ず、これに反する証拠はない。また、被告が、イ号機の在庫を保有していることを明確に認定できる証拠はない上、被告が、近い将来に事業活動を再開し、しかもイ号機の販売を再び始めるという具体的な可能性を認めるに足りる証拠もない。

よって、現時点においては、イ号機の販売等の差止め及び廃棄を求める原告の請求は理由がない。

三  次に、損害賠償額について判断する。

証拠(乙五、被告代表者本人尋問の結果)によれば、被告は、平成二年から平成九年までの間にイ号機を輸入して合計四〇八台販売したこと、イ号機の販売金額は一台当たり五〇万円であることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして、弁論の全趣旨によれば、本件特許権の実施料はイ号機の販売総額の五%と認めるのが相当である。

よって、一〇二〇万円(五〇万円×四〇八台×五%)をもって本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当し、同額を原告は受けた損害額としてその支払を請求することができる。

四  以上のとおりであるから、原告の請求は、損害賠償金一〇二〇万円及び不法行為後の日である平成一〇年九月一二日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(平成一一年二月一八日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸啓子)

物件目録

A 別紙図面一、二に示すごとく、ハウジング(5)内に握り寿司のシャリ玉成形用の一対のロータ(19、20)が、外周を対向させ中心部をそれぞれの回転軸(21、22)に固定して取り付けられてある。

B 別紙図面三、四に示すごとく、該一対のロータ(19、20)の各外周部は、五角形を基本形状としてその各稜線部に相当する個所にそれぞれ凹部(25)が形成され、各頂角部(28)に相当する個所はそれぞれ外側に向け緩やかな円弧状に形成されており、両ロータ(19、20)の該凹部(25)どうしが水平方向において対向するとき両凹部(25)に囲まれた長方形状の空間が形成され(別紙図面三の場合)両ロータ(19、20)の各頂角部(28)どうしが水平方向に対向するように回転が進むにつれて該空間が解放されるように(別紙図面四の場合)設けられている。

C 別紙三ないし八に示すごとく、該二本の回軽軸(21、22)は互いに平行で、かつ一方(22)に他方(21)が一定距離間を近接離間しうるよう平行移動可能に設けられている。

D 別紙図面五ないし八に示すごとく、該二本の回転軸(21、22)間には、該平行二軸を常時接近させる方向に付勢する付勢手段(30)が設けられている。

E 別紙図面六、八に示すごとく、前記二本の回転軸(21、22)のうち、前記一方(22)は動力により回転するが、他方(21)は、該一方の回転が一対の回転伝達板(32、36)を介して伝達されることにより、互いに逆方向に回転するよう配設されている。

F 別紙図面五ないし八に示すごとく、該一対の回転伝達板(32、36)は、外周を互いに対向させそれぞれの中心部が各回転軸(21、22)に固定して設けられ、いずれも五角形状板の各頂角部に相当する個所に、片面側は板厚の半分の深さまで円弧状の凹部(34)を形成し、他面側は板厚の半分の深さまで円弧状の凸部(35)を形成している。

G 別紙図面五ないし八に示すごとく、該一対の回転伝達板(32、36)は、その回転時に双方頂角部が水平方向に互いに対向するまでは頂角部どうしが離間することによって前記平行二軸間距離を短縮させるが(別紙図面五、六の場合)、頂角部が互いに水平方向に対向するとき前記のごとく形成された双方の凹凸部(34、35)が互いに嵌合して平行二軸間距離を広げるように(別紙七、八の場合)設けられている。

H 寿司用シャリ玉成形機である。

(商品名 卓上型にぎり成形機「ニューころちゃん」)

図面一

<省略>

図面二

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図面三

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図面四

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図面五

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図面六

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図面七

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図面八

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